世田谷美術館ワークショップシリーズ「誰もいない美術館で」
第5回「トーキョー・スケッチ」レポート

2005年5月28日(土)・29日(日)

「誰もいない美術館で」とは?
世田谷美術館が主催する中高生を対象とした演劇やダンスのワークショップ。 展示されている作品からイメージを呼び起こしてさまざまなパフォーマンスづくりに挑み、閉館後の美術館をその発表会場にしてしまいます。 ナビゲーターを努めるのは、われらが店長・柏木陽。毎回さまざまなゲストをお迎えし、作品づくりに取り組んでいます。

日中戦争前の1935年から、バブルのはじけた1992年までの東京をフィルムに収めた写真展「ウナ・セラ・ディ・トーキョー」。 この展覧会場を舞台に、20名の参加者が繰り広げる演劇ワークショップが行われました。

今回のテーマは、「体のうるさい会話劇をつくる」。 ゲストに聾俳優の庄崎隆志さんを迎え、写真の中に息づく人々の会話を髪の毛からつま先まで、言葉に頼ることなく全身で表現していきます。

まずは自己紹介。 庄崎さんの手話表現からヒントを得て、名前や特徴を体で表す自分だけの「サインネーム」を作ります。 「言葉の通じない外国で会話するみたいに、もっと伝えようという気持ちで表現してみて」 繊細な動きで会話をする庄崎さんの「言葉」に、思わずハッとさせられます。

次は「歩く」エクササイズ。 他の人の歩き癖を見て、自分も真似して歩いてみます。 歩き方を意識することで体の細かな感覚が研ぎ澄まされていくのがわかります。

サインネーム

左から、榎本さん、庄崎さん、手話通訳の岩戸さん、店長・柏木。
折り返して右から、百貨店スタッフ大西、青山。
とっているポーズは青山オリジナルの「サインネーム」!

参加者は展示作品の中から5枚の写真を選び、そこに一人のキャラクターを浮かび上がらせてストーリーを作ります。 展示会場には一般の観客も大勢いて満員御礼の中、ちょっとしたパフォーマンスがありました。 庄崎さん、そして店長・柏木が演ずる、東京の老夫婦の物語。 写真の前で立ち止まっては浮かび上がるマイム劇。 庄崎さんの美しい指先の表情に目が釘付けになります。

創作室に戻って一人ずつのキャラクターを無言劇で発表した後、今度は二人組になって自分のキャラクターと相手のキャラクターを同じ空間におき、会話させてみます。 「動きがなくて写真みたい」「知り合いなのか家族なのか、人物同士の関係がわからない」「会話は面白いけど、場所や背景がもっとわかるように演じてみて」 庄崎さんの厳しいけれど温かい言葉と、体だけで人や周りの空気すべてを表してしまうような動きの指導を受けて、稽古にも熱が入ります。

言葉を使わずに演じてみる。するといらないセリフが出てきます。 同時に必要な言葉もあるかもしれません。制限を加えてみることで、表現の可能性がどんどん膨らんでいきます。

2日間の稽古を経て、いよいよ発表の時間です。 ペアを組んだ人と一緒に選んだ写真たちの前で、自分たちの東京の物語を披露します。 想い人を乗せた人力車をこぐ男性。街角で花を売る人と、その友人のギター弾き。 お腹をすかせた日本の兵士と、東京在住のアメリカ人。 さまざまな時代と背景をもつ人たちが出会ったら、きっとこんな会話をするだろうな、と思わずクスっとしてしまうようなドラマが出来上がりました。

最後に庄崎さんの世にも美しい手話劇「雨ニモマケズ」を全員で観賞。 絵画でも映像でもない、生身の人がそこに息づいている感覚。 東京はちっぽけな都市です。でもそこに生きている人の体は無限で、豊かで美しい。 そんなことが感じられる2日間でした。

 

シリーズ名:誰もいない美術館で vol.5

企画名:トーキョー・スケッチ

主催:世田谷美術館(せたがや文化財団)

企画協力:NPO法人演劇百貨店

日時:2005年5月28日(土)・29日(日)

ナビゲーター:柏木陽(NPO法人演劇百貨店)

ゲスト・パフォーマー:庄崎隆志(オフィス風の器)

アシスタント:榎本トオル(デフ・パペットシアタ―・ひとみ)、
青山公美嘉、大西由紀子(NPO法人演劇百貨店)

対象:子ども、大人

人数:22名(大人6名、中高生16名)

その他:世田谷美術館の普及事業「タノシサ・ハッケン・クラス」の関連企画