いくつものドラマが生まれる

青山公美嘉(演劇百貨店 進行役)

2003年6月25日

演劇百貨店の進行役には、さまざまな人材がいます。 その中でも異色の人材なのが、青山公美嘉。 姫路の大型児童館で、演劇百貨店の創業者・如月小春のワークショップに参加したのが中学一年生のとき。 あれから13年を経た現在、演劇活動と並行して、姫路はもちろん、世田谷のワークショップでも指導者側として活躍しています。

今回は、彼女が世田谷パブリックシアターでのワークショップ記録集に書いた文章をご紹介。 彼女なりの筆致で、世田谷の稽古場の様子をとらえています。

演劇百貨店のワークショップは、たった14回のお稽古でお芝居を一本作ってしまうという、大スペクタクル演劇をやっている。 とにかく毎年毎年、毎回が常に新しく、常に発見に満ちていて面白い。 これはもう、本番で上演される舞台はもちろん、お稽古の14回すべてが一つの作品である、と思ってしまう。

さて、今年私と同じ班で芝居作りをしたのは、中学生の女の子2人と高校生の男の子一人。 100メートルを13秒台で走るという陸上部の美少女エースでしっかり者のはつみと、ぽややんとしている割にどこか小悪魔的魅力を持つ外国育ちのようこ。 そして、何を考えているのかよくわからないのに思い切ったギャグでみんなを楽しませてくれる、すっかり大人っぽくなってしまったかつての男子中学生のゆうた。

練習内容には、発声練習等の演劇部的なエクササイズは一切なく、『空気の流れ』や『感じたこと』といったつかみどころのないところをつかむやり方で作っていった。 はつみとゆうたは今年3年目・4年目のリピーター参加者ということもあり、慣れている分この作り方にすぐ順応していった。

しかし、今年初参加のようこはなかなかこのやり方が納得できないらしい。 とうとうある日、不安を押さえきれなくなったのか大粒の涙をポロポロとこぼして泣き始めてしまった。 ようこ曰く『本番まであと少しなのに、学校の友達にチケットも配ったのに、駅にポスターまで貼って大々的に宣伝しているのに、なのに、なのに、まだ先の見通しが立っていないなんてェ!!』。

私は練習を一時中断し、慌てて大いにようこをなぐさめた。 「大丈夫だよ」とくり返しながらはげまし、なだめた。

するとそこへ、どこから持ってきたのかゆうたがトイレットペーパーを片手に現れた。 ゆうたはトイレットペーパーをことん、とようこの目の前に置き、突然「これってさ~、キャンプの時持ってないと意外と困るんだよねぇ、うん」と、言った。 一瞬あっけにとられた全員が吹き出した。ようこも笑いながら涙と鼻をふいていた。

ゆうたは一言もようこをなぐさめなかった。 だけど、ゆうたのちょっとぶっきらぼうな優しさはみんなに伝わったと思う。

14回のお稽古の中でこんなドラマがいくつも生まれる。 でも、それがいつ生まれるかは誰にもわからない。 本番が終わると、ようことはつみは抱き合っていつまでも泣いていた。 そんな生きた演劇(ドラマ)がここには存在しているのだと思う。

2003/06/25